からだのデザイン

「解剖学」「生理学」を扱います.私たちのからだがどのようにデザインされているのかを考察・研究するためのブログです.

110I3_複数のチェックポイントを有する良問

110I3
筋萎縮性側索硬化症患者で第6頸髄の頸椎症性脊髄症を合併するとき、筋萎縮性側索硬化症の病態によるのはどれか。
 
a 上腕二頭筋萎縮
b 腕橈骨筋筋力低下
c 大腿四頭筋反射亢進
d 下腿三頭筋線維束性収縮
e Babinski徴候陽性
 
 
 本問も良問に分類される問題です。しかし正解率は30〜40%と振るわず、受験生にとっては非常に解きにくい難問だったのではないでしょうか。
 
 前回は110H2を題材に「上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害」について学びました。早速その知識が生きてくるのです。そのような意味では、基本を踏まえた上で、応用できるかを問うているのが本問なのです。
 
 まず、筋萎縮性側索硬化症<ALS>は、疾患像として原則として「脳神経、すべての脊髄において、上位運動ニューロン・下位運動ニューロンの両方が障害された」際の所見が見受けられます。上位運動ニューロン・下位運動ニューロンの両方が障害された場合には、表現形としては下位運動ニューロン障害の所見を呈するという知識を押さえておいてください。
 したがって、筋萎縮や深部腱反射の低下、線維束性収縮については、ALSの症状/所見になりえます。
 
 一方で、第6頸髄の頸椎症性脊髄症では、第6頸髄レベルの下位運動ニューロン障害と、それ以下の上位運動ニューロン障害を来たします。基本的な内容の確認となりますが、脊髄では白質が障害された場合にはそれ以降の神経線維が影響を受けます。特に運動路では白質を通るのは上位運動ニューロンなので、白質(側索)の障害ではその脊髄レベル以下の上位運動ニューロンが全て障害されます。したがって、デルマトーム的にC6領域の筋力低下・筋萎縮・深部腱反射の低下~消失を認めた場合には、第6頸髄の脊椎症性脊髄症の影響を考えます。
 
 選択肢の吟味に移ります。上腕二頭筋萎縮 および b 腕橈骨筋筋力低下 についてです。上腕二頭筋および腕橈骨筋の神経支配はC5〜6なので、その領域の筋萎縮や筋力低下は第6頸髄の頚椎症性脊髄症による下位運動ニューロン障害で説明が付きます。なお、ALSの症状としても矛盾しないことを付記しておきます。
 次に、c 大腿四頭筋反射亢進 および e Babinski徴候陽性 についてです。これも頚椎上性脊髄症・ALSのいずれでも見受けられる可能性がある(ALSの場合、上位のみが障害されている場合を想定)ことが分かります。
 よって【正解】は、d 下腿三頭筋線維束性収縮 となりますが、この選択肢だけは、ALSでしか説明が出来ないために、これを選ぶことになります。頚椎性脊髄症では下肢の”上位"運動ニューロン障害をきたすので、線維速性収縮は認めないのです。
 
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 本問を「良問」認定できるのは、まず「上位運動ニューロン・下位運動ニューロン障害」の基本的な知識がベースとして必須である点が挙げられ、更には、脊髄症やALSの各論の知識が求められた上で、両者の違いを区別できるか?と問われているからです。これらのチェックポイントをすべてクリアしなければ正解にはたどり着けないのです。
 やや難問ではありますが、文字数の少ない割に症候論・疾患論の両方を復習するのに適した教材なのかなと考えました。
 
文責) まなびのデザイン 民谷健太郎